古来より多くの権力者が追い求めてきた「不老長寿遺」は、これまでは果たせぬ夢に過ぎなかった。
しかし、抗老化研究が急速に進み、ある程度健康を維持しながら100歳を超えることや「若返り」が現実味を帯びてきた。
最新のサイエンスで分かってきた老化の正体と制御法とは?
見た目が老けている人は体の老化も進んでいる。
「誰でも毎年1歳ずつ年をとり、加齢はさけられませんが、老化が進むスピードには個人差があります。
最新の老化研究により、その進行スピードを緩やかにして老化現象を抑えつつ年をとることが、近い将来、可能になるかもしれません」。
老化研究の最前線で活躍する慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任講師の早野元詞さんは、こう話す。
早野さんは、米ハーバード大学医学大学院のデビット・シンクレア教授(遺伝学)の研究室で老化研究に取り組んだ経験を持つ。
シンクレア教授は、老化や若返りの方法に関する研究についてまとめた世界的なベストセラー「LIFESPAN」の著者で、「老化は治療できる病」であり「健康なまま120歳まで生きられる時代が近づいている」と説く著名な研究者だ。
海外では、老化が進むスピードには個人差があることを示す興味深い研究が行われている。
そのうちの一つの研究(*1)では、ニュージーランドの約950人を26歳から12年間追跡調査し、38歳時点の生物学的年齢を比較した。
生物学的年齢の判定材料としたのは、体の代謝能力を表す血糖値に関わる指標のHbAIc(ヘモグロビンエーワンシー)、心拍持久力、腎機能を示す数値など18の指標だ。
すると、実年齢が同じ38歳でも、生物学的年齢は実際より若い28歳から老化が進んだ61歳まで33年もの差があったという。
生物学的年齢が高い人は、握力や脚(あし)の筋肉が低下し、認知機能の低下も始まっていた。
もともと慢性疾患はなく、まだ老化を意識することが少ないと見られる38歳で、生物学的年齢にこれだけの差があるというのは驚くべき事実だ。
確かに、同じように年を重ねているにもかかわらず、50歳で驚くほど若く見える人がいる一方で、別の人は10歳以上年を取って見えるというケースは少なからずある。
できることなら前者でありたい、というのは多くの人が望むことだろう。
遺伝的要素が同じでも生活習慣で寿命に差、また、最近の60歳の人は昔に比べて元気で若々しい、などという話もよく耳にする。
実際そう感じている人も多いだろう。
遺伝的要素がおなじでも、生活習慣で寿命に差
老化の進むスピードの違いはどこから来るのだろうか、生まれる前から遺伝によって決められているものなのか。
デンマークの一卵双生児を対象にした研究などから、老化に対する遺伝の影響は15から25%で、残りの75から85%は生活習慣や環境によって変わることがわかっている。
「つまり、遺伝より、食事や運動などの生活習慣や、光への当たり方などが老化への影響は大きく、自分の努力次第で老化のスピードを緩やかにし、実年齢より生物学的年齢を若く保つことは可能ということです」と早野さんは指摘する。
自分の生物的年齢がどのくらいかは簡単にはわからないが、70歳以上の同姓の一卵性双生児約900組を10年間追跡し、見た目年齢と死亡率の関係を調べた研究(*2)は興味深い。
この研究では、女性看護師20人と男性教育実習生10人、高齢女性11人が判定した平均値で、見かけ年齢を算出している。
100%同じ遺伝子を持つ一卵双生児でも、実年齢は70歳なのに、一方は64歳、もう一方は74歳に見えるというように、見た目年齢には10歳もの開きがある場合があった。
そして、見た目年齢が老けて見えるほうが、明らかに先に死亡する確率が高かった。
見た目が老けている人は体の中も老化しており、若く見える人よりも死亡リスクが高いわけだ。
この研究の結果からも、老化のスピードは、遺伝よりも生活習慣や環境の影響が大きいことが分かる。
祖先が長寿家系でなくとも、自分の努力次第で、元気に長生きできる可能性があるのだ。