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細胞の隙間を埋める土台--コラーゲン
●コラーゲンは皮膚、腱、骨、軟骨に多い
この章では、健康づくりのために必要な材料について考えてみましょう。
まず、コラーゲンです。女性なら、肌に潤いとハリを与えるとして、化粧品などに多く使われていることはご存じでしょう。またゼリーなど、お菓子に使われるゼラチンはコラーゲンから作られるものです。
コラーゲンとは、人間をはじめとする動物の体内にある物質で、細胞と細胞の間の隙間を埋めている、いわば土台の役割を果たしている物質です。コラーゲンは3本のタンパク質のポリペプチド鎖<アミノ酸が結合してできた鎖>が絡み合っている3重螺旋の線維状タンパク質です。
細胞をブロックだとすれば、それをつなぐセメントの役割をなっているともいえるでしょう。もしコラーゲンがなければ、私たしの身体は身体の形にならないのです。細胞の外にあること、そして繊維状をしていること、この二つがコラーゲンの大きな特徴です。
細胞と細胞の隙間を埋めているのですから、全身のあらゆる臓器にコラーゲンはあります。特に皮膚、腱、軟骨などには多く存在しています。皮膚や腱の成分は、およそ3分の2が水分です。そして残りの3分の1は、タンパク質や多糖類などの有機化合物で占められ、このうちの約80%がコラーゲンなのです。
人間など高等動物の身体を構成するタンパク質の3分の1はコラーゲンですから、身体で最も多いタンパク質がコラーゲンということになります。コラーゲンは、アミノ酸が長く結合したポリペプチド鎖でできています。このアミノ酸の種類に特徴があります。
まず、いちばん多いアミノ酸は、グリシンです。これが全体の3分の1を占めています。次いで多いのがプロリン。3番目はヒドロキシプロリンとヒドロキシリジンです。このなかのヒドロキシプロリンは、コラーゲンのすべてのアミノ酸のうち約10%を占めていて、コラーゲンの目印として利用されています。
●細胞の足場となるコラーゲン
ここではコラーゲンの働きに関して少し詳しく見てみましょう。コラーゲンはさまざまな臓器や身体の形を作る働きをしています。それを支えたり、丈夫にしたりするのです。また臓器と臓器を結び付けたり、臓器と臓器の境界を作ってもいます。全身のあらゆる臓器にあるコラーゲンですが、このような多様な働きをするので、それぞれの働き適した性質のコラーゲンとして存在しているのも、その特徴です。
たとえば、腱のコラーゲン線維は骨と筋肉を結んでいて、その性質と構造は引っ張る力に強い ロープのようにできています。一方、皮膚のコラーゲン線維は強さと柔軟性をもった繊維のような構造と性質をしています。
人間は60兆個の細胞からできていますが、細胞はコラーゲンを足場として寄り集まり、それぞれの臓器が形作っています。細胞と細胞の間のコラーゲンという足場があるからこそ、しっかりとつながっているのです。コラーゲンがなければ集まることができず、分裂して増えることも、生きることもできないのです。
コラーゲンがどのような状態にあるかで、細胞の活性も左右されるのです。そして、コラーゲンは細胞によって作られたり壊されたりします。細胞とコラーゲンはお互いに影響し合う、切っても切れない存在なのです。
●コラーゲンの道を通って細胞に運ばれる核酸
ここで少し核酸に話を戻します。食べ物に含まれている核酸は、消化管をとおり、小腸で消化吸収されます。そして身体に張り巡らされている血管を通して身体の隅々に運ばれて、最終的に細胞に届けられます。
ここで重要なのは、 末端の毛細血管は細胞に直接つながっていないという事実です。では核酸は
どのように細胞に届くのでしょうか。
それは細胞と細胞の間にあるコラーゲンでできた道を通って細胞に入るのです。ですから、もし、コラーゲンでできた道が酸化され、老化するとその道が閉ざされてしまい、核酸はもちろん他の栄養素も細胞内に届かなくなってしまうのです。
そうなると細胞は弱り、機能が衰えてしまいます。コラーゲンは3重の螺旋構造をしています。この3重螺旋が酸化されると、架橋構造という現象が起こります。これは細胞を支える足場が固まって動かなくなる状態をいいます。
皮膚を例にとれば、コラーゲンが老化するとシワになるということなのです。核酸を細胞まで行くようにするためには、細胞の足場であり核酸が通る道であるコラーゲンを健康な状態にしなければならないのです。またコラーゲンが老化すると、細胞のDNA合成が抑制されるという研究も発表されています。
細胞には、ヌクレオチドプールという、 核酸を貯めておく場所があります。核酸を貯めておけば、細胞が新しくなりたいという時には、それを使用できます。しかし年齢が重ねるに連れて、身体の機能は衰えます。プールの中の核酸も少なくなってきます。そうなると、細胞が新しくなろうとしても、原料である核酸がないので、できません。古い細胞は老化細胞のままになります。それが生活習慣病の原因にもなっているのです。
その対策には、核酸をどんどん食べればよいのですが、コラーゲンが老化していると十分に届きません。細胞の代謝やDNA合成は抑えられてしまうのです。そこで、核酸だけでなく、コラーゲンも合わせて摂取することで、より効果が高まるのです。
コラーゲンは老化する、 コラーゲンの老化を防げば、細胞の老化を遅らせることが可能
●コラーゲンは、若いうちは年齢とともに強度を増す
コラーゲンの分子には、繊維を作る能力あります。それは、コラーゲンが溶けた中性の溶液を、37ど位温めると、体内のコラーゲンと同じしま模様をもつ繊維できることでわかりました。しかし、分子が集まって繊維を作るだけでは、弱すぎます。
コラーゲン線維が体の中で役割を果たすためには、分子と分子の間に架橋することが必要なのです。せいじょうなコラーゲン線維は、分子と分子の間に橋があって繊維を安定させているのです。
コラーゲン線維の架橋の化学構造は、1960年代に解明されはじめました。コラーゲンのなかに、少量のアルデヒド基があることが、まずわかりました。アルデヒド基は化学的にとても活発で、近くある他のコラーゲンの分子のなかのリジンやヒドロキシリジンと反応し、結ばれるのです。これをシッフ塩基型架橋といいます。
シッフ塩基型架橋は、年齢とともにどんどん減少し、人間では10歳になるまでにはほとんど消失します。しかしコラーゲン線維は、シッフ塩基型架橋が消失するとともに安定します。ひっぱり強さやタンパク質分解酵素に対する抵抗力などが上昇するのです。
これは、シッフ塩基型架橋が成熟架橋に変化していくのだと考えられ、藤本大三朗理学博士たちの研究によって、1970年代にコラーゲンのなかから新しい架橋アミノ酸が発見されました。ピリジノリンと名付けられたこの物質は、実験によって成熟架橋であることが分かったのです。 その後ピリジノリンは、骨、軟骨アキレス腱などのコラーゲンに存在するが、 皮膚や角膜などには存在しないことがわかりました。
●コラーゲンの膨潤力は年齢とともに低下する
コラーゲンは、成熟後に年齢とともに膨潤性が大きく低下します。特に25歳過ぎ、老化に伴って大きく変化するのです。いろいろ年齢の人のコラーゲンを 臭化シアンで分解する実験が行われ、老化とともに、成熟架橋とは違った架橋ができてくると考えたれるようになったのです。
この老化とともにできる架橋は成熟架橋のように特定の場所、特定の数だけあるのではなく、無作為にできると考えられています。たくさんの架橋ができると、コラーゲン線維羽ぼうじゅんしにくくなります。老化による架橋は、血管を固くしたり、皮膚にシワを作ったり、関節をこわばらせるなどの老化現象に関係するのです。
コラーゲンは、 体のなかにある多くのタンパク質に比べて、代謝の回転が遅いという特徴があります。体のなかに長くタンパク質がとどまっているため、いろいろな化学反応で修飾され、その結果として架橋ができると考えられています。その化学反応の一つが、メイラード反応です。
これは、食品を調理するときにできるコゲ、タンパク質を加熱すると褐色に変化する反応のことです。このメイラード反応が実は、体内でも起こっているのです。老化にともなってできるコラーゲンの架橋も、一部はこのメイラード反応によってできると考えられるのです。
また、活性酸素もコラーゲンに余分な架橋を作り出せます。コラーゲンに活性酸素の一つであるヒドロキシラジカルを作用させると、架橋ができることが明らかになっています。コラーゲンは代謝の回転が遅いたんぱく質ですから、長く体にとどまっているために、様々な要因で発生する活性酸素によって攻撃うける割合も多くなります。そのために余計な架橋ができるなどの変化が起こると考えられるのです。
●コラーゲンと細胞、老化の悪循環を断つ
コラーゲンは、細胞の足場となるものですが、メイラード反応や活性酸素によってコラーゲンが変質すると、足場としての働きにも変化が現れます。活性酸素に攻撃されたり、メイラード反応を起こしたりコラーゲンを足場とする細胞は、せいじょうなコラーゲンを足場とする細胞に比べて分裂しにくい、DNAも合成しにくいという実験結果ができているのです。
コラーゲンが老化すると、細胞の足場としての機能が落ちて、細胞の働きを低下させるわけです。細胞が老化して機能が低下すると、コラーゲンの代謝回転の速さがさらに遅くなります。
すると、メイラード反応や活性酸素の攻撃でコラーゲンの細胞の足場としての働きはますます低下し、細胞の活動もますます低下するという悪循環が起こると考えることができます。その悪循環を断つためには、外部からコラーゲンを取り入れる、核酸を摂取して活性酸素を消去するなどの方法をとることです。 それによって、コラーゲンや細胞・遺伝子の老化を防ぐことが期待できるのです。