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2免疫におく老化学説
人間には生まれつき免疫能力がない病気がある。
昔、新聞にも載ったことがあるので覚えている人いようが、米国テキサス州のデービッド少年は生まれつき免疫力がなく病原菌に対する抵抗力がないために、生まれてすぐに無菌室に入れられ消毒された食べ物や玩具を与えられて育った。
通常、われわれにとってほとんど害を及ばない病原菌に感染しただけで命を落とす恐れがあるためその隔離は厳密を極めた。
12歳になって免疫力をつけるため姉の骨髄細胞の移植手術を行ったが、経過が思わしくなくついに死亡した。
かわいそうなことに、親に抱かれたのはNASAが開発した宇宙服を身につけた時の一度きりとのことである。
免疫を担う細胞は、Bリンパ球(B細胞)が作る抗体が抗原と反応する体液性免疫と、Tリンパ球(T細胞)が活性物質を放出したり、直接抗原に作用する細胞性免疫に大別される。
B細胞の表面には抗原と結合する受容体(抗体、免疫グロブリンと呼ぶ)があり、抗原の働きを抑える(抗原抗体反応)。
抗体をたくさん作る(B細胞の増殖)ためにはそれを命令する細胞が必要であり、それをヘルパーT細胞という。
また、抗原の活動を抑えた後はB細胞の増殖は必要ではなく、サプレッサーT細胞がそれを指令する。
すなわち、抗原抗体反応はこの二つのT細胞によってコントロールされている。以上が体液性免疫のメカニズムである。
もう一方の細胞性免疫に関与する細胞としては、キラーT細胞、K細胞、NK細胞などがある。これらの細胞はマクロファージと呼ばれる大食細胞を集めて抗原を食いつくしたり。インターフェロンやインターロイキンなどの活性物質を出して抗原を破壊する。
われわれの体はこういった免疫機能の働きで守られているわけである。ちなみに、T細胞は骨髄から胸線を経て作られ、B細胞とマクロファージは骨髄で作られている。
ガンの放射線療法や化学療法では骨髄機能がダウンし白血球が減少するため免疫不全で死ぬ例が少なくない。
そのほかにもウイルス感染など、免疫不全の原因となる物質、環境がこの世の中にはたくさんある。老化もその原因のひとつである。
若い人に比べて感染症でなくなるお年寄りが多いのはそのことを証明している。
ツベルクリン反応は60歳を過ぎると陽性率が低下するが、結核菌に感染した老人が減ったからではなく細胞性免疫機能が低下しているため、ツベルクリンに対する反応が弱まったためである。
老化に伴う免疫能力の衰えを示す実験が東京都老人総合研究所の広川博士によって行われている。
この結果を見ると老化に伴い免疫機能が著しく落ちることがわかる。免疫系の異常である膠原病や自己免疫性疾患は特に老人に多い。
最近、スギ花粉症に悩まされる人が多くなった。その大部分の人は小さいころはなんでもなかったのが40歳を過ぎたころからおかしくなったとか、成人してからなったという人が多い。
また、都市部の人に花粉症が多い。花粉症は体液性免疫が優位になって発病(免疫異常)するが、都市部では空気の汚染、ラッシュ時のストレスなど複合的に免疫機能を低下させる原因があると思われる。
その証拠といってはなんだが、スギ花粉がお寺の境内いっぱいに敷きつめられたようになっている東京よりも花粉症は少ない。
免疫機能の衰えが老化によるものか、あるいは老化に伴って現われる現象かよくわからないところがあるが、免疫機能は老化に大きく関わっている。
免疫機能を調節する方法
それでは免疫機能を調節するにはどのようにすれば良いのであろうか。そのひとつはストレスを避けることである。
最近四国の魚(タイ、カンパチ)の養殖所を見る機会があったが、日本の養殖はイリドウイルスのために全滅しそうな雲行きである。
本来、このウイルスが原因で魚が死ぬことはなかった。
それが重大な問題になってきたのはストレスが大きな原因のひとつである。養殖魚の生活環境は非常に悪い。
まず、生け簀(す)の広さについてみてみると、国が決めた基準に比べ超過密状態にある。魚は、狭いところでお互いがふれ合いそうになると互いに鰭(ひれ)をそばだてる。
そのため、魚の皮膚が鰭により傷つく。そこから病原菌が入り病気になりやすい。そのため、抗生物質を多用して病気と予防をする。
抗生物質を使い過ぎると耐性菌ができて効かなくなるために、さらに大量の抗生物質の投与が必要になる。薬づけの悪環境である(人間も薬づけの養殖魚を食べ過ぎると同じことになるので用心しなければならない)
最近、TBTOの使用が禁止になった。これは有機錫化化合物で安全性に問題があったために禁止になったのだが、養殖現場では非常に大きな役割を果たしていた。
冷凍イワシが餌として使われているが、これが生け簀の網につくとその餌を求めて貝が網につき網目をふさいでしまう。
網目がふさがると、海流の流れが悪くなり生け簀の海水は徐々に腐ってくる。食べ残された餌が海底にたまりヘドロのようになっているが、これもまた生け簀の海水を汚くする。
TBTOは、生け簀の海水の汚れが激しくなってしまった。このような、狭く、汚く、薬づけの環境のなかで、しかも早く高く売るために肥満に育てられた養殖魚はストレスのきわみにある。これが、従来問題にもならなかったウイルスにさえ抵抗力がなくなった原因である。
人間でいうと、ラッシェアワーの電車の中で生活しているようなものだ。養殖魚はひとつの例にしか過ぎない。
ストレス回避が長寿の条件である。
大手総合商社員の寿命は平均寿命より10歳以上短い。A商社では平均寿命が58歳だと聞いたことがある。
給料も「太く短い(人生が短い代わりに1回にもらう給料が多い)」といった、笑うに笑えない話も聞いた。ストレスが短命の原因であることは間違いない。
免疫機能を調節する第二の方法は栄養である。
東北大学の木村教授は、食餌制限をすると「免疫力が増強し、感染症や免疫不全、ガンの発生が抑えられ寿命が延びる」と指摘した。
食餌制限はこのほかにも脂質代謝の改善、高血圧の予防など老人病の予防と治療に重要であるとの報告も多い。
第二には、細胞性免疫を高め体液性免疫を弱めることが必要である。
すでに述べたように、核酸はインターフェロンγ―の産生とインターロイキン2の産生を増らし、インターロイキン4の産生を減らすことにより、細胞性免疫を高める。その結果、アレルギー体質が改善される。(花粉症を治ったという例はたくさんあります)
免疫は栄養と密接にかかわっている。核酸はもちろんのこと必須栄養素をバランス良く摂ることが免疫力を高めるために大切である。
特に、ビタミンⅭ、B3、B6、B12、Eと高度不飽和脂肪酸、そしてアルギニン(アミノ酸)を摂ることが免疫機能を高める。
高度不飽和脂肪酸は、魚の油や植物油に多く含まれている。動物の油は飽和脂肪酸が多く脳血栓、心不全、動脈硬化を引き起こす。
生活習慣病の大きな問題にこれら循環器系の疾患があるが、動物油はその原因となる老化促進物質である。
料理で、煮込んだり焼いたりした時に動物の油は固まり、魚や植物油は固まらないことからわかるように、飽和脂肪酸は個たまりやすく不飽和脂肪酸は液体のままである。
固まりやすい動物油は血管の中でも固まりやすい。魚油や植物油が健康によいのは単に血液を柔らくするためだけではない。
不飽和脂肪酸は局所ホルモンとして様々な生理活性を持つプロスタグラシジンに生体内で変わり、そのプロスタグラシジンが免疫機能に大きな影響を与えるためである。
実際に、不飽和脂肪酸、特にリノレン酸やガンマ―リノレン酸を含む月見草種子油と上記のビタミン剤を一緒に与えたらアトピー性皮膚炎が軽減したとの報告がある。また、魚油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)も血栓症やアラルギ―などの生活習慣病の予防、治療のために世界中で薬や健康食品として用いられている。
アルギニンは魚の白子に含まれているアミノ酸であり、免疫力を高める。鮭白子エキスには核酸DNAとアルギニンが豊富なため免疫を賦活する。
ある種の茸に、抗ガン剤作用があることが知られている。サルノコシカケ科の茸や椎茸がすでに制ガン剤として大量に利用されている。仙人が不老長寿の薬として使っていたといわれる霊芝にも抗ガン剤がある。
霊芝はビタミンⅭと併用すると抗ガン剤が増大する。その理由はいろいろ考えられるが、月見草種子油の場合もビタミ剤との併用効果があり興味深いことである。
茸の中の制ガン活性物質はある特殊な糖タンパク質であり、ヘルパーT細胞を刺激し免疫機能を高めるたえに制ガン活性を示すと考えられている。最近、最も抗腫瘍活性が高いメシマコブが注目されている。韓国で抗ガン剤として利用されているメシマPL2・5は臨床研究も豊富でガンの予防と改善に大きな市場を形成しつつある。