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核酸と痛風の関係
尿酸のでき方・・・・
「痛風」という名前から、何か尿に含まれ酸性の物質で尿を飲む健康法と何か関係があるのではないか・・・と疑われた読者もいるかもしれない。
しかし、そうではない。核酸DNAとRNA成分のうちプリン塩基をもつアデノシンやグアノシンなどが分解されてできるのが尿酸である。
遺伝報を担うDNAはそれほど分解されるわけではない。しかし、RNAは分解されやすい。
赤血球の寿命は120日しかないことはすでに述べた。
赤血球の120分の1が毎日失われ、その減った分が毎日骨髄で合成されている赤血球に含まれるタンパク質の9割以上がヘモグロビンであり、ヘモグロビンは血液中に約750g含まれる。
その120分の1が毎日失われるということは、1日に6.25gのヘモグロビンが消失していることになる。
言い換えれば、6.25gが毎日骨髄で作られていることになる。
小腸粘膜(タンパク質)の消失が毎日30gであることもすでに述べたが、新陳代謝が激しい細胞では、毎日数gから数十グラムの単位でタンパク質が分解されている。
身体全体では200gのタンパク質が分解され、その70%が再利用されている。
それにともない、RNAも分解している。
分解されたRNAは再度RNAの原料として利用される(サルベージ合成)か、あるいはさらに酸化分解される。
上記の図プリン塩基をもつアデノシンやグアノシンはキサンチンオキシダーゼ(XO)やキサンチンデヒロゲナーゼ(XD)という酵素によって尿酸にまで分解される。以上が、尿酸のでき方である。
なぜ人間に痛風があって犬や猫にはないのか
痛風の名前の由来は、風に当たっても痛いことによる。関節が赤くはれ上る病気である。
この病気はギリシア時代から知られており、アレキサンダー大王、ルイ14世、フランクリン、ゲーテ、スタンダール、モーバッサン、ニュートン、ルター、ダーヴィン等の権力者、詩人、科学者、宗教家などの社会的に成功した者や美食家に多いのが特徴である。日本では相撲取りに多いといわれている。
痛風の原因になるのは尿酸である。尿酸は水に溶けにくく、1000㏄の水に2~3mgしか溶けない。尿酸は血漿タンパク質とゆるく結合しており、そのため血漿中では100cc当たり6.8mgまでは溶けることができるといわれている。
しかし、実際はもっと溶けることができそうで、60~70mg/100ccの濃度でも血漿中では結晶にならなかったとの報告もある。
血漿中ではよっぽど高濃度(異常状態)でない限り尿酸が結晶化することはなさそうである。それはともかく、尿酸濃度が高くなると体液に尿酸が溶けなくなって結晶化するのは間違いない。
痛風とは、尿酸濃度の高い人が関節部、特に体温が低いところで結晶化されやすいため、初めは足の親指の関節の辺りに尿酸の結晶が沈着し炎症がおこる病気をいう。
ひどくなると身体のあちこちの関節部に尿酸の結晶ができて炎症が起こる。尿酸の結晶は針状のため、体の内側から針に刺されたように痛い。
このように尿酸は昔から痛風の原因になるということで嫌われ続けてきた。
尿酸が核酸(プリン)の酸化物であることから「痛風患者は摂らないように」というのが古い栄養学の食餌療法であった。
しかし現在は
(1)核酸食を摂っても血漿中の尿酸濃度はほとんどが上がらないこと(核酸食と痛風の関係については後で詳しく触れる)、
(2)医師は核酸食の制限はトータルとしての栄養補給に問題が生じるために、痛風患者に核酸食の制限を指導しなくなってきている。
人間を含む霊長類と鳥類、そして爬虫類の一部を除く他のすべての生物は尿酸をアラントインへ変換するウリカーゼという酵素をもっている。
アラントインは尿酸に比べ約10倍も水に溶けやすい。犬や猫は尿酸をアラントインに変えることができるために、結晶ができることはなく痛風にはならない。
しかし、実際は人間やウリカーゼをなくした動物の場合は尿酸値が高くなる可能性があり、痛風になりやすい。ではなぜウリカーゼを持った動物と持っていない動物がいるのであろうか?
どうも、すべての動物は初めはウリカーゼを持っていたのが進化の過程でこの酵素を捨てたようである。その結果、痛風になる動物とならない動物に分かれていったといえる。
人間は尿酸を体内にプールする
人間では、毎日700mgの尿酸が産生され、同じ量が排泄される。
そして、いつも1200mgの尿酸が身体の中にプールされている。
尿酸ができる可能性があるのは、
①プリン塩基のデノボ合成、
②食事からのプリン塩基、
③生体核酸成分の分解の三つ
であるが、①と③が大きな原因で②はほとんど影響がないというのが最新の学説である。
尿酸の排泄について見てみると、腎臓からの尿酸の再吸収率は90%以上もあり、わずか数%しか腎臓から排泄されない。
このように、人間はウリカーゼを捨てて産生した尿酸がさらに分解されないようにし、かつ尿細管からの再吸収によって腎臓からの排泄を少なめに抑えている。
この二つによって人間は体内に尿酸をプールしている。
尿酸の驚くべき効果
なぜ、生物の中で最も進化した人間が、このような仕組みで尿酸を体内にプールする必要があるのであろうか?
そこに何か大きな謎がある。
痛風というややこしい病気を引き起こす尿酸をあえて身体にプールするといった謎が。
これに関連して、「人間がビタミンⅭの合成をやめた代わりに尿酸を対外に逃さないようにした」との説がある。
従来の学説では、「人間がビタミンⅭの合成をやめたのは、野菜や果物から必要な量を摂ることができるため、あえて生体内で合成する必要がなくなったから」と説明されている確かにそのような面もあったかもしれない。
しかし、もっと積極的な前者の理由のほうが本当のように思われる。
前者は逆にいえば、「尿酸をプールできるようになったので、あえて生体内でビタミンⅭの合成する必要がなくなった」と言い換えることができる。
もし、こういったいいかたが正しいのであれば、尿酸にビタミンⅭに取って代わる大きな意味がなくてはならない。
ここに興味深いことに、血漿中の尿酸濃度が高い哺乳類ほど長寿だとの報告がある。
哺乳動物では0,5mg/100cc以下しか血漿中に尿酸は存在しないが、霊長類ではもっと高い濃度で尿酸が血漿中に存在する。
人間では血漿に溶けるぎりぎりの量まで尿酸をプールしている。
上記の図から尿酸が多い動物ほど長寿であることはよくわかったことと思う。
尿酸は抗酸化力が高いため、身体の中の炎症を抑えるため寿命が長くなっているそうです。
尿酸は、プリン体が分解されたあとに産出される物質です。プリン体は遺伝情報をつかさどるDNAやRNAの材料になるので決して悪い物質ではありません。
尿酸は通常、体内に一定量に保たれていて多くなると汗や尿に排泄されてバランスを保っていますが、過剰になると血液中に排出されます。
このように尿酸は必要なものであり、決して悪いことばかりではないのです。
でも、それだけではビタミンⅭ合成能と引き替えに尿酸をプールするようになったとの理由にはならない。
ここで、ビタミンⅭの役割を思い出してもらいたい。ビタミンⅭは体内でいろいろな生理作用を営んでいるが、特に重要なのは活性酸素(酸素毒)の失活である。
京都大学の松下博士らの研究や、食品中の発ガン性物質を調べる方法を開発したカリフォルニア大学のエイムズ博士らの研究によると、生体内の物質の中で尿酸が最も抗酸化能(活性酸素の失活力)が強いという。
一般にチオバルビツール酸(TBA)は油脂の酸化の測定法として利用されており、小さい値であれば脂質過酸化が進んでいないこと、すなわち抗酸化力が強いとみなしてよいが、見ると核酸関連物質すべてにビタミEと同等以上の強い抗酸化力がある。
核酸に含まれる関連物質の抗酸化力(TBA値)
PH7.0 | PH9.0 | ||
核酸に含まれる物質 | アデニン | 0.366 | 0.189 |
グアノシン | 0.216 | 0.121 | |
キサンチン | 0.204 | 0.099 | |
ヒポキサンチン | 0.240 | 0.108 | |
ウラシル | 0.243 | 0.127 | |
オロチン酸 | 0.350 | 0.242 | |
尿酸 | 0.200 | 0.164 | |
RNA | 0.278 | 0.085 | |
ビタミンE | 0.325 | 0.219 | |
コントロール | 0.435 | 0.438 |
その中でも尿酸が一番強い抗酸化力を持っている。
抗酸化能が強いことから当然予想されることだが、尿酸はヒドロキシラジカルによるDNAの損傷を抑制する効果、スーパーオキサイドによるDNAの損傷を抑制する効果、不飽和脂肪酸の酸化抑制効果、ビタミンⅭの酸化抑制効果がある。
こういった効果はビタミンⅭの役割に非常に似ている。
しかも尿酸には、ビタミンⅭが酸化されても(抗酸化剤として使われることは、自らは酸化されることを意味する)それを元のⅭに戻す力があることから、「尿酸のプールとビタミンⅭの合成能の放棄」には大きな関連がある、との見方が成り立つ。
動物における尿酸のプールは約6000万年前のことと思われ、寿命と脳の大きさが大幅に増大した時期と一致している。
血漿中の尿酸濃度が高い動物が長寿であるのは、尿酸の抗酸化力によるものと考えられる。
以上からわかるように尿酸は、けっして邪魔ものではなく非常に重要な物質である。
さらに、興味深いことには尿酸は消化管中にたくさん含まれている。たとえば、唾液中には3mg/100cc含まれている。
発ガン性の食べ物を食べた時、その発ガン作用を阻止しているわけである。
血液の検査をすると血漿中の尿酸値(UA値)がいくらくらいあるかがわかる。
統計的に尿酸値の高い家系にはガンが少なく低い家系にはガンが多い。ガン家系とそうでない家系があることから、ガンに遺伝子的なものがあると考えられている。
遺伝的体質ばかりか食べ物が発ガンの大きな原因である。特に尿酸値が低い人は気をつけたほうがよい。
痛風の原因?
尿酸が非常に大事であることはよくわかった。でも痛風が・・・・、というのがすべての読者の共通の関心事であろう。
しかし、それほど気にする必要はない。その理由は後に示すことにし、尿酸についてもう少し説明しよう。
- 日本人の痛風罹患(りかん)率は、0,02%であり、その95%が男性である。
- 患者10~20%は遺伝的なものである。
- 血漿尿酸値7~10mg/100cc以上を高尿酸血症というが、痛風は尿酸値が高い人に起こりやすい。
血漿尿酸値の性、年齢、人種別違いに示したが日本人では男性のほうが女性よりも圧倒的に尿酸値が高い。
これが、男性に痛風患者が多い理由である。白人でも男性が女性よりも尿酸値が高いが、日本人よりもその差は小さい。
痛風患者の大部分は、活動的、攻撃的であり、あまりデリケートな人がいない。
腎炎や膠原病の人は内向的であり、医師の指導をよく守るが、痛風患者は守らない人が多く、糖尿病患者はその中間である。と東京大学の加賀美博士が指摘している。
社会的に成功した人に尿酸値が高い人が多いことは、こういった性格によるのかもしれない。
女性が男性よりもどちらかというとおとなしいのも、尿酸値の量が関係している可能性がある。
最近は、女性が強く男性が弱い傾向が一部にみられる。
このことから、男女の血漿尿酸値の差が縮まってきているのではないか、といったことをときどき考えさせられる。性格だけでなく、血漿尿酸値が高ければ頭が良いとの指摘もある。
激しい運動、アルコールや果糖の過剰摂取、薬物そしてストレスが、一過性の高尿酸血漿を招くことが知られている。
プリン食が尿酸産生のひとつの原因であることを示した。
それからすると、当然、高核酸食は血漿尿酸値の大きな原因になると思われる。
しかし、人間においてはプリンヌクレオチド合成にフィードバック・コントロールが働いている。
(英国、バデノッホージョーンズ、その他)アデニル酸(AMP)グアニル酸(GMP)といったプリン食を摂取すると、それらが肝臓におけるプリンのデノボ合成をつかさどる酵素を阻害するといった内容である。
すなわち、サルベージ合成が活発になるとデノボ合成が阻害され、尿酸の生体成分が一定に保たれる(ホメオスタンス)これがフィードバック・コントロールである。
核酸食が、核酸のデノボ合成を抑制し、生体内の核酸量が一定になるのと同じ理由である。
実際に核酸食による血漿尿酸値の変動が少ないため、最近は核酸食の制限を指導しなくなってきている。
ここに面白い話がある。
グリーンランド・エスキモー人は獣魚肉を主食とし、動物性たんぱく質、脂肪、核酸摂取量が極めて高いにもかかわらず、彼らに痛風はない。
日本人の獣魚肉類摂取は、戦後急速に増大しているが欧米人ほどではない。
しかし、痛風罹患率は欧米人を上回っている。
核酸食と痛風を短絡的に結びつけることができないのが、このようなことからもわかる。