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核酸には強力な抗酸化作用がある――
ところで、あなたが高核酸食を積極的に実行したとしたら、あなたの中で行われてきた肝臓によるデノボ合成は抑制されることになります。わざわざ必至になって核酸を合成しなくても、外からちゃんと供給されるのですから。肝臓や腎臓はそれだけ楽をするのです。当然のこと、あなたの体の中にあって、ガン細胞に利用されるデノボ合成由来の未熟な核酸の量も激減します。
これは、肝臓の機能が低下することを意味するわけではありません。むしろ逆です。デノボ合成という役目から解放された分だけ負担の軽くなった肝臓は、それだけ良好な機能を保持できるし、またすでに機能低下があったとしても回復の余力を得られるということです。
また何らかの理由で高核酸食をやめたとしても、そのこと自体ですぐに問題が生じることはありません。外から入る核酸が少なくなれば、デノボ合成が再開されて、必要なだけの核酸の量をなんとかして保とうとするからです。ただしの結果として、ガン細胞にとって都合のよい環境が再構成されることにはなります。
ところで前では、活性酸素とガンの関係について触れましたが、核酸には抗酸化作用もあることが確認されています。したがって高核酸食とは、この側面からもガンや動脈硬化ほかの成人病の危険を遠ざけます。
このようにして、現在までに明らかにされた核酸をめぐる事実を総合して結論するなら、
高核酸食を積極的に行うことは、ガンや成人病のみならず、あらゆる老化や病気を予防して改善する可能性があります。なぜなら、正常細胞の分裂増殖をより活発にするからにほかなりません。
老化・免疫
その結果として、加齢にともなう老化ばかりでなく、このましくない食事や生活のスタイルによって加速される老化を遅らせることもでき、体の若さと健康をよりよく保つこともできます。体の若さと健康が保たれるということは、免疫力の低下も抑制できるということであり、老化や体力低下のよって生じてしまった免疫力の低下から回復も促されます。
今となると不思議なのですが、古い栄養学では高核酸食には害があるとされていました。「核酸は尿酸の産生を促すから、高核酸食は尿酸によって生じる痛風の原因ともなり、また症状を悪化させもする」
しかし最新の栄養学は、原則としてこの考えを否定しています。ごく一部の例外を除いて、高核酸食によって引き起こされたり悪化したりする疾患はないというのが、最新の意見です。
ただし、これは残念なのですが、この意見は、いまだ医学界全体にまでは浸透していません。医師の多くは、実のところ栄養学についての勉強が不足しているからです。最新の栄養学となると、情報の断片にすら注意しない医師が多いのです。その結果、たとえば痛風の権威とされる”名医“の中にさえ、いまだに、「痛風の人は、高核酸の食事をしてはいけない」と断言してはばからない医師がいるほどです。
“尿酸=悪“ではありません
ダイジェスト・コーナはここらで終わりにしましょう。
以降は、まずは「痛風の原因であり、悪化させる張本人である」としか思われていなかった尿酸と核酸の関係をめぐる課題からはじめて、核酸のガン予防・治療効果についての理解を深めていくことにしましょう。
尿酸は、核酸代謝物質です。つまり尿酸とは、不必要になった核酸が分解されたときに生じる物質だということです。この尿酸は、たしかに痛風の元区ではありますが、たからといって高核酸食が血中尿酸値を高めるかといえば、この双方は直結しているわけではありません。
この点に関しては「核酸の栄養学」(木本英治・森重福美共著/日本分子整合栄養学研究財団刊)の“核酸成分の代謝異常“の項に、詳しくデータと共に紹介されています。
①痛風の背景にある高尿酸血症とは、血清中の尿酸の濃度が、100cc中7mg程度以上の状態をいう。
②体内での尿酸の供給源となるのは、食物中の核酸と、体内で崩壊された細胞に由来する核酸と肝臓で作られた核酸とがある。
③体内で生じた尿酸の75%ほどは、腎臓によって尿へと排泄される。残りの25%は胆汁に溶けて腸管に入り、腸内細菌によって分解される。
④したがって、腎機能不全によって尿中への排泄障害があれば、高尿酸血症になりやすい。
⑤その他ある種の酵素の欠損などによって引き起こされる高尿酸血症もあり、遺伝的な要因のゆえの高尿酸血症となる例も多い。
⑥しかし、ここで注目しなければならないのは、一般に高核酸食が血清尿酸値を上げるとしても、せいぜい100cc中1mg程度のものであり、ごく例外的な場合を除いて、高核酸食が痛風の原因となったり悪化させることはない。
⑦例外的な場合の代表例をあげるなら、先天的な遺伝的疾患として核酸代謝の異常を示すレッシュ・ナイハン症候群であり、この疾患にあっては、デノボ合成は著しく盛んである、反面、核酸食由来のサルベージ合成が十分に行えない。そのため利用されることなく残る核酸食由来の核酸は、代謝されて尿酸となって血中に残留し、血清尿酸値を高めてしまう。
⑧決定的なのは、高核酸食は食事由来の尿酸を増やすが、肝臓で作られた尿酸を減らし全体として尿酸のバランスは保たれているということ、これは高核酸食が肝臓で作る核酸や尿酸の量を相対的に減らすため。
したがって、通常は高核酸食が痛風の原因となったり、症状を悪化させることはないということです。
核酸と痛風の関係について、この安心すべき結論が出たところで、今度は尿酸の持つ“よい働き”について整理しておくことにしましょう。
尿酸には、まずは、強力な生体内高核酸物質であるという側面があります。また人間が哺乳類の中でもっとも長寿であり、しかも他の動物に比べれば“ガンの発症が少ないという面でも、尿酸が大きな役目を果たしていることがわかっています。
哺乳類一般を見ると、血液中の尿酸の濃度100cc中0,5mg以下でしかありません。これに対して人間では、成人男性で100cc中⒉5~7.5mgもあります。成人女性(日本人)では、男性よりも1mgほど低くなります。
いずれにしても哺乳類一般に比べれば10倍に近い高濃度です。
この血中尿酸値の上昇は、人類の長い進化の過程で進んだものですが、人類は、血中尿酸値を高めるためにしたがって寿命を伸ばし、同時に脳を増大させ、一方でガンの発症率を急速に減少してきたと考えられます。
メカニズムの面からみれば、人間はウリカーゼという尿酸を分解する酵素を失うことで血中尿酸値を上昇させました。ネズミの類をみるなら、これらはウリカーゼを持っているため尿酸の分解が盛んで、したがって血中尿酸値はきわめて低い値でしかありません。
サルの類は、ウリカーゼは持っていますが、これはネズミのものよりも不安定であるために、ネズミ類より血中尿酸値が高くなっています。
ではウリカーゼを完全に欠いた哺乳類はといえば、人間を含む類人猿のみだということがわかっています。
いかがでしょう。ネズミ類、サル類、類人猿の寿命を比較するなら、ウリカーゼによる尿酸分解の率に反比例して寿命が長くなり、脳が大きくなっています。
次に、もう一つおもしろい話をご紹介しましょう。実は、ウリカーゼを失うこととビタミンⅭとの間にも密接な関係があるのです。
ほどんどの哺乳類は、体内でビタミンⅭを合成する能力をもっていて、食品からビタミンⅭを特に補給する必要がありません。
対して人間は、体内でビタミンⅭを合成することができないために、食べ物からビタミンⅭを摂取する必要に迫られています。
ビタミンⅭの役割の一つといえば、抗酸化作用、すなわち活性酸素によって細胞組織がダメージを受けるのを防止する役目です。人間では、体内にプールした尿酸がこの役目を担ってくれるために、ウリカーゼを失うのと同時にビタミンⅭの合成能力も捨てることができたと考えられます。
念のために確認しておけば、ビタミンⅭの役割は抗酸化作用だけてはありません。したがって、人間は尿酸濃度が高いからビタミンⅭを摂る必要がないというわけではありません。
尿酸は多くの病気から体を守っている
人間は、ウリカーゼを欠いたことにより血中での尿酸の分解をやめ、さらにこの尿酸が体外に排泄されないように、その90%以上を腎臓から再吸収するという、二重のシステムによって、高い血中尿酸値をたもっています。こうした体内にプールされている尿酸の総量は、1200mgです。
しかしまったく排泄されないわけではありません。それでも1200mgのうち、1日で700mgは排泄されています。この排泄されてしまった分は、体内の核酸成分を分解し、食べ物から得た核酸を代謝し、さらにはデノボ合成を利用して常に補い、1200mgを維持するようになっています。
このようにして大量にプールさえた尿酸は、口や消化管のなか(食品などの異物が通過するという意味で、口から肛門にいたる消化管の内部とは、実際には体外であるとみるのが正解でしでしょう)では唾液や胃酸などの成分ともなり、唾液や胃酸は尿酸の持つ強力な抗酸化作用によって口から入る発がん性物質を無毒化しようとします。このような尿酸の働きは、消化管を除いた本来の体内にあっては、次のような整理することができます。
①一重項酸素やヒドロキシラジカルなどの活性酸素を消去し、これらの毒性から組織細胞を守る。
②活性酸素と同様に働く過酸化脂質の生成を阻害するとともに溶血を阻害する。
③赤血球膜の酸化を防止する。
④活性酸素によってDNAが損傷を受けるのを防止する。
⑤白血球を保護することで免疫能力を維持する。
⑥食品から得たビタミンⅭの酸化を防止する。
これらの効果を総合的にみるなら、尿酸は、ガン、老化、脳梗塞、免疫力の維持、アレルギーなどの免疫不全などなど、実に多くの疾患から私たちの体を守ってくれていることになります。
核酸関連物質の抗酸化力(TBA値)
PH7.0 | PH9.0 | ||
核
酸 の 関 連 物 質 |
アデニン | 0.366 | 0.189 |
グアのシン | 0.216 | 0.121 | |
キサンチン | 0.204 | 0.099 | |
ヒポキサンチン | 0.240 | 0.108 | |
ウラシル | 0.243 | 0.127 | |
オロチンサン | 0.350 | 0.242 | |
尿酸 | 0.200 | 0.164 | |
RNA | 0.278 | 0.085 | |
ビタミンE | 0.325 | 0.219 | |
コントロール | 0.435 | 0.438 |
すでにおわかりのように、尿酸は核酸関連物質です。上記の表は、元京都大学教授の松下博士のデータに基づく核酸関連物質の抗酸化力を比較したものです。表の下に記された「TBA値」とは、脂質にそれぞれの物質を与えた場合の過酸化の程度を表したものであり、数値が小さいほど抗酸化力が強いことを示しています。
これからもわかるように、尿酸は抗酸化力が総じて強い核酸関連物質の中でももっとも強力な抗酸化物質です。抗酸化物質の代表的なものとして知られるビタミンEと比較すれば、尿酸はもとより、核酸関連物質の方が、きわめて抗酸化力の強いものであることもわかります。ガンの予防にビタミンEが効果的だというのはよく知られているのですが、高核酸食によって体内の核酸関連物質を豊富にするならば、ビタミンEの効果以上の予防効果があるのが明らかです。
老化とは遺伝子修復能力の低下である
私たちの体にあって、体温を36度前後の高さに維持するだけのためにも、DNAは損傷を受けています。
強い紫外線の降り注ぐ浜辺で4~5時間の日光浴をしたとしましょう。すると細胞の一つ平均で、DNAに記された30億の文字のうちの約1千万個に傷がつくともいわれています。こうしたDNAの損傷に直接手を下すのは、すべて活性酸素です。
このように、多かれ少なかれ常にDNAが損傷を受けている結果、体全体の総数60兆の細胞のうち、最小限にみつもっても1日あたり数10個は、遺伝子が傷ついているといわれます。
とはいえ、傷ついた遺伝子を持つ細胞がそのままガンという疾患に直結するわけではありません。ガン化した細胞は自殺もするし、免疫力によって排除もされます。さらに重要な側面として、損傷を受けた遺伝子を修復する力も備わっています。
自殺もせず、修復もされず、しかも免疫力の防備を逃れたとしても、これが分裂増殖してガンと診断されるほどの大きさになるには、かなり長い年月を要するのが普通です。中には“スピード・ガン”と呼ばれるように、いったん増殖を開始すると恐ろしい速さで急激に増殖してしまうガンもありますが、これまた、本格的な増殖を開始する以前にはかなり長い雌伏(しふく)の期間があると思われます。
もしも損傷を受けた遺伝子の修復能力が低下していたら、どういうことが起こるでしょう。わかりやすいのは、遺伝子の修復ができない遺伝的疾患を持っている場合です。
たとえば、色素性乾皮症と呼ばれる遺伝的疾患がありますが、この疾患を持った人の肌は、紫外線でごく簡単に赤くただれてしまい、シミやソバカスが異常に集積してしまいます。
これは紫外線によって損傷を受けた遺伝子が、普通の人のように修復されないからです。いうまでもなく、この疾患を持つ人は皮膚ガンを発病する危険が高い運命にあるといわねばなりません。
シミやソバカスがなかなか消えなくなるのは、年をとるにしたがって目立つこともあります。25歳はお肌の曲がり角といわれ、それより若いころには気にならなかったシミやソバカスが気になり出す年齢ですが、この段階ですでに肌の老化ははじまっているということにほかなりません。
すなわち、25歳頃を境にして、遺伝子の修復能力は低下しはじめてしまうのです。
目にみえる皮膚に老化がはじまった、皮膚の細胞の遺伝子修復能力の低下が明らかになったとすれば、それは同時に目には見えない体内の組織細胞の遺伝子修復能力の低下を示していることに注意してください。
老化とは、すなわち遺伝子修復能力の低下であり、損傷を受けたまま修復されない遺伝子が蓄積された末に訪れるのが、重篤(じゅうとく)な病気なのです。
遺伝子修復能力と寿命は比例する
ハートとセロトという研究者が、人間、チンパンジー、ゾウ、ラット、マウスなどの皮膚繊維芽細胞を使った実験によると、それぞれの動物の遺伝子修復能力と寿命とは正比例していることが明らかになりました。ちなみに、この図にはありませんが、人間の遺伝子修復能力はチンパンジーの2倍であり、人間の寿命もまたチンパンジーの寿命のほぼ2倍なのです。
「遺伝子の損傷を避ける能力と、その修復能力が高い動物ほど寿命が長い」
これはメドヴェデフという人が唱えた「エラー・カタストロフィー」とい学説の趣旨です。尿酸を中心とする核酸関連物質の強力な抗酸化力によって遺伝子の損傷を避け、しかも遺伝子修復能力の高い人間は、まさに寿命が長い動物としての条件を備えています。しかし同じ人間でありながらも、家系や個人差によって寿命はさまざまです。老けるのが早く、それに比例して短命は人とは、やはり遺伝子の損傷を避ける力が弱く、修復力も弱いということでしょう。
これには、体質や遺伝とともに、核酸食が不足しがちな食生活といった事情などが、複合的に関与していると考えるのが自然でしょう。結論は明らかです。
やはり高核酸食を積極的に摂取することこそが、ガン予防となり、治療の可能性を高める、老化を遅らせると共に他の疾患の危険も減少させる、もっとも有効な方法です。