不老不死・・・・「不老不死」・・・だれもが、こんな夢の薬があればと、一度は思ったことがあるだろう。
中国には不老不死の秘法を身につけ仙人がいるとの言い伝えがあり、秦の始皇帝をはじめ歴代の王はその仙人を探し求めたそうである。
今も昔も「金と永遠の若さ」が人間の二大願望のようで、富と権力を手にした王が次に狙ったものが不老不死の薬であったということである。
西洋でも時の権力者は永遠の若さを求めていろいろな工夫を行ってきた。
旧約聖書に王ダビデが年老いて体が温まらなくなった時、イスラエル全土から美しい処女を捜し出し一緒に寝かせたとの記載がる。
これは一例にしか過ぎず、セックスや女性ホルモンが若返りに大きく効果があると期待して、若い女性を身の周りに置いた例は歴史上に数限りなくある。
こういった経験が、19世紀には「精液、血液、睾丸からの抽出物を用いた若返りの薬の発明と利用」として引き継がれていった。
その間、フランスの学者が精液を使って若返ったとの報告も出されている。
精液中のホルモンに若返りの効果がると期待して実験したものだが、実際は精液中のDNAに効果があったのであろう。
また、魚の白子(精巣)から抽出した核酸DNAをフランスでは新陳代謝を活発にする薬として古くから使っている。
人類共通の願望である「不老不死」、それだけに老化に関する研究は昔の錬金術にようないい加減な物から現在の科学的研究までたくさんある。
それらを整理すると次の三つが老化学説として最も有力である。
そのいずれもが遺伝子DNAの性質に仮説の根拠を置いている。
目次
1遺伝子DNAに基礎をおく老化学説
①遺伝子プログラム説・・・・
人間は約60兆個の細胞の集合体であり、その細胞の中には遺伝子DNAがあることはすでに述べた。
そのDNAが人間の一生を決めていていると言うのがこの学説である。
受精から誕生、性成熟、老化、死といった人間の一生に現われる生化学的変化は、遺伝子DNAにプログラムされているとの考え方だが、確かにこの順番はすべての人に共通しており、特に20歳位まではほとんどの人が同じ成長の過程をたどる。
20歳を過ぎてからの、肌の衰え、体力の衰え、精力の衰え、月経の終わり等のいわゆる老化現象も人によって現れるスピードは異なるが、遅かれ早かれ同じような老化の過程をたどる。
このような変化はすべての生物に共通しており、生物には生化学的変化を支配する「老化の遺伝子」が存在し、この遺伝子の働きが一生を決めているのではないかということを想像させる。
そういった「老化の遺伝子」により「人間の寿命は120歳くらいでそれ以上生きることができない」というのがこの学説である。この説によると、いくら頑張っても「老化遺伝子」のプログラムを変えない限り120歳以上の長生きはできないということになる。
「不老不死」は夢のかなたへ・・・・である。
寿命のない細胞、生物
ところが人間の細胞の中で、決して死なない細胞が2種類だけある。
ガン細胞と生殖細胞である。
果てしなく増殖を続けるガン細胞と新しい生命を作る生殖細胞のどこに共通項があるのか、非常に興味深い、体細胞に代わって生殖細胞だけで体を作るか、あるいはガン細胞だけで体を作ると不老不死が実現しそうだとの期待がある。
しかし、たとえ細胞そのものが不滅であっても、そういった細胞でできているその個体の生存はやはり不可能であろう。
「不老不死」はそう簡単に手に入るものではなさそうだ。それではこの世の中に、寿命のない生物はいないのであろうか?
興味深いことに、杉の木のように何千年も生きている巨木や恐龍には寿命のないとの説がある。
恐龍が滅びた理由はいろいろ言われているが、恐龍に寿命のないとする考えを持っているは「寿命のないがゆえに恐龍は滅びた」とする。
動物の生存のために、真っ先に必要なのは言うまでもなく食糧である。
しかし、その生物に寿命のなく、子供を増やし続けいけば当然ながら食糧とその生物の間の需給関係のバランスが崩れ、食糧難で生存が脅かされる。
そのため自らの生存のためには子供を作ることができなくなる。
しかし、寿命はなくともすべての生物は年と共に体力はしだいに衰える。
何千年も生きている巨木もそのほとんどが死んでいるかのような老化状態にあり、活力が衰えている。
恐龍がそういった高齢化社会にあった時に、地球に氷河期が訪れた。高齢化と巨大化の状態にあった恐龍にとって寒さと食糧難に打ち勝つことは不可能であった。それが絶滅の理由であり、自らの生存の追求が種の絶滅をもたらしたとの仮説である。
もし、人間に寿命がなければ、同じような状況が予想され、個体としての寿命は伸びても種としての生存が脅かされるのではないだろうか。
人間の寿命がおよそ120歳であるということは人間にとってむしろ好ましいことかもしれない。
恐龍の例を見るまでもなく、種の保存のためには「新しい生命の誕生(生殖)と古い生命の死」といった条件が必須であるように思える。
このことは、見方を変えると動物の生殖年齢と寿命の間になんらかの相関関係があるのではないかと想像される。
実際、霊長類を含む多くの哺乳動物についてみてみると、性成熟年齢(20歳)の約6倍が最大寿命(120歳)である。
哺乳動物に限らず魚や鳥にも同様の相関関係がある。
このような例からすると、6倍程度の相関関係が種の保存にとって最も理想的なのかもしれない。
寿命の遺伝子プログラム説とは関係がないが、人類の歴史を見ると平均寿命が短かった昔は結婚年齢が早かった。そこにはやはり種の保存についての必然性があったのではないだろうか。
②エラー・カタストロフィー説
毒性物質・・・・DNAは、非常に傷つきやすい物質である。
発ガン性のある食物や薬、医療で使われるⅩ線やガンマ―線、オゾン層で最近ますます深刻な問題になってきた宇宙線や紫外線、自動車や工場の排気ガス、ストレスが原因で生体内で過剰に分泌される化学物質。
これらは簡単にDNAを傷つけてしまう。神経伝達物質のアドレナリンやノルアドレナリンは青酸カリと同程度の毒性がある。(動物の半数致死量は、体重1kgあたり青酸カリは4,4mg、アドレナリンやノルアドレナリンは4mg)半数致死量とは、動物の半分が死ぬ薬物、食物などの量のことである。
ノルアドレナリンは「怒りのホルモン」と呼ばれ、怒りを覚えた時に大量に分泌される。怒った時に顔面蒼白になるのはノルアドレナリンに血管収縮作用があり血液が流れなくなるからである。
アドレナリンは「恐怖のホルモン」と呼ばれ、恐ろしい目にあった時に大量に分泌される。
怒りや恐怖・・・・、人間が最もストレスを感じる時、青酸カリと同じ強さの毒物が脳内に大量に分泌されているわけだ。
あまりの恐怖に「髪が真っ白になった」といった話を聞いたことがあるが、実際にあり得ることなのだ。
いかにストレスが人体に害を与えるか、予想以上のものがある。毒の話をしたついでに、蛇足ながらみなさんがよく知っている他の毒物の毒の強さも紹介する。
この中で、愛煙家に非常に気になる数字がある。ニコチンの毒性は青酸カリとほとんど違わないということである。
火がついて吸っている限りは、それほどニコチンが体内に入らないようであるが、水やアルコールに溶かして飲むと非常に強い毒性がある。
かつて話題になったトリカブト毒の毒性は青酸カリと10倍以上である。
この表の中で最も身近な物はアルコールであろう。体重60kgの成人で1,5リットル(一升瓶よりすこし少ない)のウイスキーを飲むと死ぬ確率50%ということになる。最近、精神免疫学が注目されている。
簡単に言うと「ガンになるのではないかと思って煙草を吸う人と、健康に良いと思って煙草を吸う人を比較すると、前者ではガンになりやすく後者はなりにくい」ということである。要するに、「病は気から」が学問になったわけである。酒、煙草が好きな人はせめて精神状態だけでも良くしておくべきだろう。
DNAのエラー
話を元に戻すが、DNAを損傷させる原因はほかにもある。
人間が体温を37度近くに保っているだけでも1日に約12,000個の核酸塩基がDNAから脱落している。
DNAが傷つけば、当然ながら異常タンパク質や異常酵素が合成される。
細胞のガン化も起きる。種々の病気が発生する。
老化はこのようなDNAのエラーが原因だとするのがイギリスのメドヴェデフ等がとなえた学説である。
この学説を証明する実例としては、
- 老化した細胞や動物に同じタンパク質でありながら若い時とは違っていくぶん性質が異なったものが現われたり(アルツハイマー型痴呆症はその一つ)、
- 動物に生体成分のアミノ酸とは違った類以のアミノ酸様の物質を与えて異常タンパク質を作らせると、その動物の寿命が短くなったりすることを挙げることができる。
DNAのエラ―の修復
しかしこんなに簡単にDNAにエラーが生じてしまうのでは身体がいくらあってもたまったものではない。
当然ながらエラーを修復する機能を生体は持っていなければならない。
ハートとセトロは哺乳動物の繊維芽細胞を用いて紫外線照射によるDNAの損傷を研究したところ、動物には細胞の修復能力ががあり、修復能力が高い動物ほど寿命が長いとのことである。
また、DNA修復能力は同じ動物の場合でも年をとると低下することもわかった。
この説を一言で言うなら、「DNA修復能力が高い動物ほど長寿であるが、年と共に修復能力が衰えて老化する」と言うことになる。(高齢者は同量のサプリメントを飲む、若い人に比べ、実感が遅いということ)
遺伝子修復や損傷遺伝子を持つ異常細胞の自殺による細胞新生は先に述べた核酸塩基の構成単位であるAMP(アデノシン―リン酸)で可能になりつつある。
③予備遺伝子による交代説
メドヴェデフは、もう一つ別の学説を提供した。遺伝子DNAが損傷を受けた時、過剰に存在する同一の予備遺伝子が損傷を受けたDNAの代わりに使われつというのがその説である。
この説からすると、過剰DNAをたくさん持っている動物のほうが寿命が長いということになる。この仮説はエラー・カタストフィ説とも関係がある。
予備遺伝子が多いか少ないかは、DNA修復能力が高いか少ないかにも大いに関係する。
「予備遺伝子が多い動物はDNA修復能力が高く寿命」ということがいえそうである。
以上の三つの仮説は老化の三大遺伝子とも呼ばれ、これらは矛盾なく相互に関連しあっている。
人間の一生は120歳までであることが遺伝子DNAにプログラムされていて人智ではいかんともしがたいが、寿命に至るまでの老化の過程を若々しく健やかにすることはできそうである。
生まれて20歳位まではすべての人の生化学的変化に外見差異はないが、20歳を過ぎると個体差が出てくる。
同じ年、見た目年齢は違う
60歳、70歳にもなると同じ年の人でも20歳も違って見える場合もある。 老化の遺伝子説によれば、こういった違いは予備遺伝子の多さにも起因する。
20歳位までは、肝臓で核酸DNAの合成が盛んに行われ、そのため予備遺伝子も身体の中に豊富に存在する。
しかし、20歳を過ぎると肝機能が衰え、サルベージ合成(核酸食)なしには十分な予備遺伝子の補給は困難である。
すなわち「老化の予防に核酸食が大切」との結論になる。