ガンを予防する、もしガンになっていたとしたら勝つために戦う。その有効な方法を考えるーそれが本書の主要テーマです。その目的を達せるために、まずガンを理解することからはじめなければなりません。
想像力を豊かにしてみましょう。あなたがこの世に生まれるまでを、想像の中でたどって頂きたいのです。それはガンという病の本質を知るためにぜひとも必要なことです。あなたという人間は、たった2つの未完成な細胞でした。母の胎内の卵子という細胞と、父に由来する精子という細胞、どちらも、1対であるべき遺伝子の半分を欠いた未完成な細胞でした。
その2つの未完成な細胞、数多くの中から自然の摂理が選んだ卵子と、さらに数え切れないほど多くの中から選ばれた精子が、奇跡的な合体を遂げ、互いに半分ずつ足りない遺伝子が対になったとき、あなたという生命の最初の営みがはじまったのです。
それは素晴らしいドラマです。
合体して1つの完全な細胞となった受精卵は、しばらくの後に2つに分裂します。次にはそれぞれ2つに分裂し4つになります。4つがさらに分裂して8つに、8つが分裂して16に、16が分裂して32に、32が分裂して64に・・・・と幾重もの分裂を重ねて10月10日の後には人体として産声を上げたのです。
成人となった人間の細胞総数は、およそ60兆だとされています。そう、あなたのその体、あなたのその手足、そしてあなたの頭脳を含むすべての体の組織細胞を合計すると、何と60兆という気の遠くなるほどの数だというのです。あなたという人間は、その60兆個の細胞が秩序正しく、互いに協力し合って働いていてくれるからこそ、生きていられるのです。
受精卵というたった1つの細胞が、どうして60兆もの数になることができたのでしょう。また60兆個もの細胞が、なぜ互いに秩序正しく協力関係を保つことができているのでしょう。
すべては遺伝子のおかげです。細胞が分裂するのも、古くなった細胞が新しく細胞に置き換えられるのも、60兆個の細胞が秩序正しい協力関係を保っていられるのも、すべて遺伝子のおかげなのです。
では、その遺伝子の働き狂いが生じたとしたら、いったい何が起こるでしょう。
説明するまでもありません。体にはさまざまな不調が生じます。その結果、病気という現象が表面化することにもなります。
遺伝子の働き狂いが生じたことによって引き起こされる病気には、本章に入ってからも触れるように実に様々な種類がありますが、その代表であり、大多数の方々が恐れるものといえば、何といってもガンです。
ガンとはまさに、遺伝子の不調、遺伝子の働きの狂いが生み出す病気の、最も具体的な、また深刻な例にほかなりません。
かつてはたった1個だった受精卵という細胞が分裂し始めたとき、もしも遺伝子に狂いがあったら、今のあなたは存在するはずがありません。その受精卵は、決して、この世に生まれ育つまでに分裂成長することはできなかったからです。
したがってあなたという人間を造りあげた遺伝子とは、実に優れたエリートだということができるでしょう。それが証拠に、受精卵とならずにただただ空しく、役目を果たすチャンスを与えられずに消え去っていった卵子や精子は、あなたのご両親にかかわるだけでも天文学的な数字になるのです。
ではその優れた遺伝子によって形作られたあなたの体には、もう狂いや不調が生じる心配はないのでしょうか。
残念ながら“大あり”です。あなたの60兆の細胞の1つ1つにある遺伝子、つまり60兆個の遺伝子は、常にある種の危険にさらされているのです。
だからこそ、この世には、ガンをはじめとする、遺伝子の不調や狂いによって生じる病気が後を断たないのです。
そこで登場するのが”核酸“です。核酸とは遺伝子を作っているDNA、RNAから成る物質であり、通常の食物に含まれる栄養素ですが、これを豊富に摂取すると、あなたの遺伝子は狂いを生じにくくなることが、すでに数多くのデータからわかっているのです。
つまり核酸を豊富に摂取するなら、ガンを代表とする多くの病気の危険を遠ざけることができるということです。また運悪くガンやその他の、遺伝子の不調や狂いに由来する病気になってしまったとしても、その症状を軽くしたり、ときには治癒(ちゆ)できる可能性も高くなるのです。
ただし、「核酸とガンの関係」は研究途上であり、現代医学の全体が全面的に認めている説ではありません。私どもが多方面のデータを土台としている範囲でいえば、ほぼ医学的にも認められるべきものですが、いまだ未解明の部分もあります。したがって、本章の主張に対して不定的な材料探すことも、さほどむずかしいことではないでしょう。
その意味で、本章で内容に完全には、学門的ではありません。学問として主張するには、残りの未解明部分を埋めつくすことが要求されるからです。埋めつくされまでには、まだまだかなりの時間がかかるに違いありません。
では私どもの考えが間違っている可能性があるかといえば、ほとんどないというのが正直な感触です。それが証拠に、ガンの発症と遺伝子の関係は月日を追うごとに詳しく解明され続けていますし、遺伝子の健康を支える上で核酸の重要性も次々に明らかにされているからです。
したがって本章は、「学問的にいえば仮説の部分もあるが、しかしきわめて現実的で実証的な本である」と受け止めていただいてかまいません。
それでは本題に入ることにしましょう。旧来の栄養学や医学ではほぼ注目されることのなかった“栄養学”である核酸が、なぜ「ガンさえも癒す可能性のある重要な栄養素」として注目されるになったのかーその背景には実に驚くべきドラマが隠されています。