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意外に少ない食品中のDNA
さて、私たちが常日頃食べている、肉類、魚類、米や麦ほかの穀類、野菜類、果物などは、すべて生物の細胞の塊です。細胞の中には必ずDNAがあるのですから、それぞれに核酸を含んでいる食品です。しかし精製された食品、たとえば白砂糖や塩や油脂類などには、ほとんど核酸が含まれていません。
それぞれの食材の核酸含有量をチェックしようと思うなら、食品成分表でタンパク質の含有量をみるのが簡単な方法の一つです。食品成分表に記されたタンパク質の含有量は、ケルダール法という計測法に基づいています。その原理を簡単にご紹介しましょう。
タンパク質はアミノ酸からできています。アミノ酸は窒素を含んでいます。そこで食品中の窒素量を測り、これに係数をかけることでタンパク質を算出するのがケルダール法です。
タンパク質の含有量の目安になるのは、核酸もまた窒素を含んだ物質だからです。つまりケルダール法では、タンパク質中の窒素と核酸中の窒素の双方が同時に計測されていて、その結果をすべてタンパク質量として計上しているのです。
したがって、食品成分表でタンパク質量がゼロと記されているなら、当然のこと核酸の含有量もゼロということになります。しかし逆のことはいえません。つまり、高タンパク質の食品ならそのまま高核酸食品かというと、必ずしもそうではないのです。
代表例あげるなら牛乳です。牛乳はもっとも代表的な高タンパク食品でありながら、核酸となるとほとんど含有してなく、母乳に比べ3分の1程度です。核酸が細胞中のDNAであることを思えば当然の結果です。牛乳に限らずチーズなどの乳製品一般は、細胞組織由来の食品ではないからです。乳製品の仲間であるヨーグルト類などの発酵乳製品は、発酵、すなわちビフィズ菌などの有用菌(単細胞生物)を繁殖されることで作られますから、核酸量も高くなります。
牛乳と並んで重要な栄養食品である卵も、核酸食としてみればたよりない食材です。前に述べたように、卵は、それ自体が一つの細胞でしかないことを考えれば当然のことでしょう。卵100g(普通の鶏卵で2個ほど)中に含まれている核酸の量は86mgでしかありません。これはきわめて低い部類の数値です。
食品の核酸塩基の含有量と核酸含有量
乾燥食品中のプリン塩基 | 乾燥食品中のピリミジン塩素 | 乾燥食品中の全塩基 | 乾燥食品中の核酸含量 | 生鮮食品中の核酸含量 | |||||||
A | G | HYP | TPU | C | U | T | TP | ||||
イリコ | 285 | 837 | 260 | 1382 | 203 | 117 | 112 | 432 | 1814 | 4317 | 3605 |
イワシ | ND | 333 | 314 | 647 | 122 | 84 | 50 | 265 | 903 | 2159 | 539 |
カツオ節 | ND | 162 | 246 | 408 | ND | 46 | 11 | 57 | 465 | 1069 | 907 |
フグ白子 | 1643 | 1912 | ND | 3555 | 1328 | 146 | 2117 | 3591 | 7146 | 17585 | 5276 |
サバ | ND | 225 | 131 | 356 | 45 | ND | ND | 45 | 401 | 937 | 251 |
ちりめんじゃこ | ND | 821 | ND | 821 | 298 | ND | 73 | 371 | 1192 | 2860 | 2388 |
ビール酵母 | 512 | 606 | ND | 1118 | 529 | 269 | ND | 798 | 1916 | 4662 | 1399 |
たまねぎ | ND | 113 | ND | 113 | 74 | 83 | 55 | 212 | 325 | 815 | 78 |
卵 | ND | 104 | ND | 104 | ND | 23 | 15 | 38 | 142 | 339 | 86 |
しいたけ | 52 | 154 | 53 | 259 | ND | 116 | 69 | 185 | 444 | 1081 | 324 |
サケ白子 | 3739 | 4409 | ND | 8144 | 2207 | ND | 4130 | 6337 | 14481 | 35334 | 10600 |
※ND:非検出 A: アデニン G:グアニン HYP:ヒピキサンチン TPU:全プリン塩基
C:シトシン U:ウラシル T:チミン
では、上の表を見てください。これは福岡大学の木本英治氏(医博・理博)らが測定した「食品中の核酸含有量」を整理したものです。
この表からも分かるように、単位量あたり(表では100g中)の核酸含有量が飛び抜けて多い食品はサケの白子であり、これに続くのがフグの白子です。どちらも膨大な数の精子(いうまでもなく、一つひとつがDNAそのものに等しい)の塊なのですから、当然の結果でしょう。私たちはまだ実測していませんが、タラの白子なども同様の結果が出るに違いありません。
一般には高カルシウム食品としてイリコやチリメンジャコも高核酸食品ですが、日常の食事としては、食べる絶対量がさほど多くはならない食品であることにも注意しておくべきでしょう。
なお動物性食品を除くなら、ビール酵母の核酸含有量の高さが目立っています。
私たちの測定とは別に、通産省食品総合研究所が1989年に発表したデータ(田島らによる)をみると、乾燥ノリ、ハマグリ、カレイ、カキ(貝の)、大豆、豚のレバーなども高核酸食であることがわかります。同データでは、牛肉、豚肉、鶏肉、マグロ、カレイ、イワシなどの魚肉類にも比較的多くの核酸が含まれていて、以前より高核酸の代表とされていたイワシも他の魚肉類と比べさほど差がありません。
いずれにしてもサケの白子は、一桁上の飛び抜けた高核酸食であることに注目しておきましょう(食品総合研究所のサケ白子含有量が低いのは獲った時期によると思われる)。動物由来の食品を除けばビール酵母が目立っていることも忘れないでください。
バランスのよい塩基、高分子核酸を含んだ食品を食べたい
どういう食品が核酸をたくさん含んでいるかはわかりました。しかし、数値としての核酸含有が高いことが、そのまま高核酸食を意味しているわけではありません。本当の意味で高核酸食であるためには、次の二つの点を満たす必要があります。
第一に、含まれている核酸の塩基のバランスがよいことが大切です。
すでにお分かりのように、核酸の塩基には主なものだけでも、アデニン(A)チミン(T)グアニン(G)シトシン(Ⅽ)ウラシル(U)の五種類があります。DNAやRNAの構造を思い出してください。これらはすべての塩基によって構成されるヌクレオチド(遺伝子の構造単位)が偏りなく存在しないことには、DNAのRNAも完成することはありません。
もう一度上の表をみてください。たとえばサバの場合をみると、アデニン、チミン、ウラシルの項目がND、つまり不検出となっていて、グアニンおよびグアニンから作られるヒポキサンチンの数値のみが高く、シトシンもわずかしかありません。イワシやチリメンジャコもNDが目立ちます。
ところで“アミノ酸スコア”という言葉をご存じでしょうか。タンパク質含有食品の栄養的な評価にあたって、もっとも重要な意味を持つ言葉です。
体は、タンパク質から得られる種々のアミノ酸を利用するにあたって、摂取量のもっとも低いアミノ酸のレベルでしか有効利用ができません。簡単にいうなら、アミノ酸は種々バランスよく摂取しないことには役立たないということです。そこで高タンパク食品であっても、アミノ酸スコアによって含有アミノ酸の種類に注目してチェックすることが必要になります。
このアミノ酸スコアにならっていうなら、サバなどNDの目立つものは“塩基スコア”の低い食品ということになるのです。塩基スコアの低い食品を、しかし核酸の総含有量は高いが、塩基スコアの少ない食品を偏食した場合には、せっかくの核酸が有効に利用できないばかりでなく、かえって体に負担をかけることにもなりかねません。毎日、変化のある食生活をしなければならないわけです。
第二点。同じ核酸でも、高分子核酸をできるだけ多く含んだ食品こそが、本当の高核酸食です。
食品中の核酸成分は、次の4つの状態で存在しています。
①遊離した塩基として。
②塩基に糖が結合したヌクレオシド(NT)
③ヌクレオシドにリン酸が結合したヌクレオチド(NT)として。
④ヌクレオチドが多数結合した高分子核酸として。
これら4つのうち、④高分子核酸を食べたとしても、消化の過程でヌクレオシドやヌクレオチドにまで分解されてから吸収され、肝臓を経て赤血球によって体のすみずみに運ばれ、最終的にはヌクレオシドの形で細胞に取り込まてDNAやRNAの素材として利用されます。
しかし食べた最初から、塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドの低分子であった場合には、少なくてもその一部は消化の過程で分解され過ぎてしまい、吸収利用されなくなってしまいます。
要するに、高分子核酸のほうが利用効率が高く、低分子核酸では利用効率が低いということです。前出の、食品総合研究所の田島氏らの研究によると、肉類含有の核酸では約半分が、魚肉類含有の核酸では約3分の1が低分子の核酸です。各々それだけ、核酸利用効率の低い食品だと考えるべきかもしれません。
なお、もともとは高分子核酸であったとしても、缶詰などに加工すると、低分子核酸への分解が進んでしまいます。
サケの白子は高核酸食の優等生
私たちが、白子類、特にサケの白子こそが、もっとも理想的な高核酸食とするのは、以上の二つの条件を満たしているからです。
核酸の含有量が飛び抜けて高いばかりでなく、塩基のバランス面でも非常に優れていて、しかも含有核酸が高分子核酸であるサケの白子は、まさに高核酸食の優等生ということができるでしょう。
と、サケの白子を持ち上げましたが、ごく普通に、しかも日常的に食べる食品として評価するなら、サケの白子にはいくつもの弱点や欠点があると認めざるを得ません。
保存がきかないこともあって、一般には手に入りにくいものです。白子の相方である卵が、スジコやイクラとして広く珍重されているのに比べれば、まことに対照的です。
念のために申し添えておけば、卵であるスジコやイクラは、核酸含有量の高い食品ではありません。むしろコレステロール含有量が高い食品であることを思えば、食べ過ぎに気をつけるべき食品です。
ところで、サケの白子に比べれば、タラやフグの白子は比較的に手に入りやすい良質な高核酸食品であるのはたしかです。
好みもあるでしょうが、サケの白子に比べれば美味しいし、酒肴としては捨てがたい珍味でもあります。
しかし、サケの白子もそうなのですが、これら生の白子の脂肪分は少なくありません。ましてフグの白子となるとずいぶん高価です。
これらを考えるなら、日常的な高核酸食として、一年を通して生の白子類にたよるには現実的ではありません。脂肪含有量の多い食品であることを考えるなら、弊害も心配するべきでしょう。
ちなみに錠剤状などで市販されているビール酵母は、手に入りやすく、しかも比較的安価ですから、核酸供給源として忘れることのできない存在です。毎日10gほど摂取すれば、高分子核酸を少なくとも100mgは摂取できます。
ただしビール酵母製品に含まれているのは、RNA由来の核酸成分ですから、ウラシル塩基を含む代わりにチミン塩基を欠いています。したがって高核酸食としてはそれだけでは十分ではありません。
ごく一般の食材として補足しておくなら、海苔、ハマグリ、カキ、大豆などは、総合的に見てかなり優れた高核酸食です。一年中手に入りますし、価格も手頃です。
特に大豆は納豆や豆腐ほかさまざまな加工品もあり、ごく日常的な健康食としてあらゆる意味で優れた食品です。